京都の法律事務所。民事事件全般、家事事件、
商事事件、破産事件を取り扱っております。
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184
  1. その他の情報
 

その他の情報

「弁護士に〜を依頼すれば、具体的に何をしてくれるの?」という素朴な疑問にお答えするため、このコンテンツでは、弁護士に 依頼をされた場合に、具体的に弁護士がどのような事件処理等をするのかを、典型的な事件別に分かり易く説明していきます。

ブログ形式で随時更新してまいりますので、弁護士に相談してみようかと考えらおられる方は是非参考にして下さい。

2008/09/30

Q 医療費を支払わない場合、診療を拒否しても良いでしょうか。

A

現在、医療機関の診療費未払の問題は深刻化しており、大きな病院ですと、年間数千万円の規模になっているところもあります。

そのため、医療費の回収問題にどこの医療機関も頭を悩ませているところです。

そこで、医療費の支払いを促すという観点から、治療費を支払わなければ今後の治療をお断りすることはできるのでしょうか。

患者と医療機関は民事上、診療契約を締結し、患者は治療費支払義務、医療機関は診療義務を負います。契約内容によっては、診療義務と治療費支払を同時履行ということも考えられるかも知れません。

しかし、医師には医師法19条1項により、応招義務があります。これは、医師は正当な理由がなければ、診療を拒んではならないというものです。ここにいう正当理由に治療費未払は該当しないとするのが通説的見解であり、未払治療費がある患者の診療を拒むと、医師法違反となってしまう可能性が高いといえます。

したがって、ご質問のとおり診療拒否をなさると医師法違反に問われますので、診療拒否をしてはならないと言うことになるでしょう。

では医療機関の対応としてどうすれば良いのでしょうか。

生活に困窮している患者については、生活保護などの公的扶助を受けるように助言することが考えられます。

しかし、最近目立つのは支払能力があるのに支払わない、治療内容について不満があるから支払わないという患者さんです。この方たちに対しては、まず請求書をきちんとだす、それでも支払わない場合は、内容証明郵便を用いて請求したり、さらには弁護士に依頼をして内容証明郵便にて請求をすることがよいでしょう。それでも支払われない場合、民事訴訟をすることを考えるべきでしょう。顧問弁護士がいる医療機関では顧問弁護士に依頼する他、請求額140万円までの裁判であれば、顧問弁護士の指導の下、総務課や医事課の担当者を特別代理人に選任して民事訴訟を提起することも選択肢として十分考慮に値するものです。

判決を取得した後は、患者さんの財産に強制執行をすることになりますが、この点については顧問弁護士によく相談してほしいところです。

医療機関という性格から、なかなか未払治療費について請求をためらうところがあるようですが、医療機関の経営が厳しくなっている昨今、未払治療費についてどのように回収するのか、真剣な取り組みが必要といえます。


2008/09/30

Q 人間ドック実施時の医師の注意義務はどのように考えれば良いでしょうか。

 

病気の早期発見のために人間ドックは様々な医療機関で実施されているところですが、人間ドックを実施している医療機関及び医師は受診者に対してどのような義務を負うのでしょうか。

この点について、東京地方裁判所平成4年10月26日判決(判例時報1469号98頁)がその義務の内容を明確にしているところです。

このケースは、人間ドックを受診した際、便潜血検査の結果がプラスワンであったが、実施医療機関が独自の基準を採用して、検査結果を通知せず再検査や精密検査を指示しなかった。その後、S状結腸癌であることが診断されたが、根治的治療がもはやできず、転移性肝癌のため死亡した事案です。

人間ドックにより精密検査の機会が与えられていれば確実に救命が可能であったのに再検査や精密検査を指示しなかったため、早期発見早期治療の機会を奪われて手遅れとなって死亡したとして、遺族は損害賠償請求をしました。

裁判所は、人間ドックは、疾病、特に癌や糖尿病といった成人病の早期発見と、適切な治療を受けさせるためのアドバイスを主たる目的として行われるものであり、受診者も当時の医療水準における適切な診断とアドバイスを期待して人間ドック診療契約を締結するのであるから、人間ドックを実施する医療機関としては、当時の医療水準に照らし、疾病発見にもっとも相応しい検査方法を選択するとともに、疾病の兆候の有無を的確に判断して被験者に告知し、仮に異常があれば治療方法、生活における注意等を的確に指導する義務を有するというべきであるとし、(但し指導義務について過失があったものの、死亡との間に因果関係は認めなかった)被験者は適切な指導を受けることにより大腸癌を含む疾病の早期発見、早期治療の機会を得ることを期待していたというべきであり、この期待は法的保護に値するものとし、期待権侵害による慰謝料請求を認めました。

この裁判例からは、人間ドックの場合にも、検査方法をきちんと選択し、異常があれば告知し、異常の場合には治療方法等を指導する義務があるといえ、医師としては右義務を怠らないようにしなければならないといえるでしょう。また、同じく定期健康診断においても、同様のことがいえると思われます。


2008/09/30

Q 患者からカルテの開示を求められていますが、開示に応じなければならないでしょうか。

 

患者さんからカルテ、いわゆる診療録等の開示を求められることが多くなっているようです。他方、カルテには、患者さんに見せることが必ずしも適切ではない事項も記載されていることがあり、医師としては判断に悩むところです。

カルテの閲覧請求について、裁判例は余り無いのが実情です。少ない裁判例の中で、東京高等裁判所昭和61年8月28日判決は、医師に治療内容などについての説明報告義務は認めているものの、その説明にあたり、診療録の記載内容の全てを告知する義務まで認められず、それぞれの事案に応じて適切と考えられる方法で説明報告すればよいとし、口頭で足りることもある、医師法の診療録作成義務を根拠に、患者本人が閲覧することを権利として保証していると考えることも困難であるとしています。

ただ、裁判例は、診療録閲覧の具体的必要性があると考えられるような事情の存在する場合に、別の根拠にて診療録閲覧請求権を認めうる余地があることを示唆しています。

この判例は、患者が常に診療録の閲覧を請求することができないとしています。

ただ、医師としては、治療内容などについての説明・報告義務は課されているわけですから、同義務を全うするのに適切な手段として、診療録の開示は常に念頭に入れておくべきでしょう。また、患者さんからの信頼関係の維持の観点から、診療録開示に特段の不適切な理由がなければ、積極的に開示に応じて、患者さんの納得を得ることも必要ではないかと思われます。


2008/09/30

Q 新しい治療法について、医療機関が実施しなかった場合に責任を問われるときは、どういった場合でしょうか。またそれは、医療機関の規模によっても異なるものなのでしょうか。

 

医療機関は、患者に対して診療をする際に、診療契約を締結することになります。それによって、医療機関は患者に対して診療義務を負うことになります。この診療義務の程度を画するものとしては医療水準という概念を用います。医療水準は、医師に対してその水準程度の診療を行うべき義務があるという形で、医師に対して法的義務を課すことになります。

新しい治療法について、これが医療水準の内容を構成する場合には、債務不履行を構成する場合があります。そこで、この医療水準はどのように考えれば良いのでしょうか。

このことを考えるに当たって、リーディングケースとして、平成7年6月9日の未熟児網膜症についての最高裁判所の判例があります。

これは、未熟児網膜症における光凝固法という治療法について、昭和49年当時、当該医療機関において診療を実施すべき義務があったかどうかということが問題となっていたものです。

最高裁は、診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準として、ある新規の治療法の存在を前提として検査・診断・治療等にあたることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、

  1. 当該医療機関の性格、所在地域の医療環境等の諸般の事情を考慮すべきである
  2. 新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められるような場合右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである

  1. 上記の場合、当該医療機関は、医師等に知見を獲得させておくべきである
  2. 医師がその知見を有していなかったために、医療機関が治療法を実施せず、また実施 可能な他の医療機関に転医させるなどの適切な措置を取らなかった場合
  3. 当該医療機関が予算上の制約等の事情によりその実施のための技術・設備等を有しな い場合、他の医療機関に転医をさせるなどの適切な措置を取らなかった場合

医療機関は診療契約に基づく債務不履行責任を負うとしています。

上記判例に従えば、医療機関としては、その所属する医師を学会などの研究会に出席させたり、医療雑誌などの情報から、新規の治療法の存在、その内容、その実施機関、実施機関の規模などの情報収集をしておくべきであるでしょう。

そのため、医療機関は、所属する医師をはじめとする医療従事者に対し、常に研鑽を求めるとともに、内部においても各診療科の標準的な治療内容について話し合い、文書化しておく等して、当院の治療内容を把握しておくことが必要でしょう。

その上で、新しい治療法などの実施機関をあらかじめ把握しておき、転医ができるように連携を構築することが望ましいと考えられます。


2008/09/30

Q ルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔注入)を患者に実施したところ、脳出血が生じてしまいました。その場合、ルンバールと脳出血との間に因果関係があると認められるのでしょうか。医療事故訴訟における因果関係はどの程度立証されればよいのでしょうか。

 

一般的に、損害賠償責任を負う場合には、行為と結果との因果関係が要求されます。

医療事故訴訟における損害賠償においても、医療行為とその招来した結果との間に因果関係が要求されることになります。

では、どの程度の因果関係が要求されるのでしょうか。

上記ケースの元となった最高裁判所昭和50年10月24日判決(民集29巻9号1417頁)が参考となります。

同判決は、訴訟上の因果関係について、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟めない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる、としました。

これは、自然科学的な厳密な証明ではなく、特定の結果発生を引き起こしたことを認められる高度の蓋然性の証明で必要十分であるというものです。

このケースでは、医学的な経験則を適用することによって因果関係を認めました

具体的には、

  • 化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものであり、当時それが再燃するような特 別の事情も認められないこと
  • 経験則上、本件発作とその後の病変の原因は脳出血であること、本件ルンバールによ って脳出血が発生したこと

を認定し、因果関係を肯定しました。

したがって、医師としては、自然科学的な厳密な証明がなされていないからといって、因果関係を否定されるということはなく、経験則を検討し、高度の蓋然性が認められれば、因果関係が肯定されることもあり得ることを認識する必要があろうかと思います。

医師としては、常に医学的経験則についても研鑽を深めておく必要があるといえます。


2008/09/30

Q 注意義務の水準とはなんでしょうか?

 

医師は、患者との間で診療契約を締結して治療に当たることになる。その場合、医師としては患者に対して診療義務を負う。この診療契約であるが、病気を治して健康体にすることまでを請け負うことはできないので、治癒を仕事の完成として考える請負契約として捉えるのは適切ではなく、準委任契約と考えることが妥当であり、通説的な見解である。

そして、医師は診療契約上の診療義務を負うが、どの程度の診療を行えば義務を履行したといえるのであろうか。医療過誤訴訟において、医師の損害賠償責任の存否を判断する際には、医師が当該診療に際して法律上必要とされる注意義務を尽くしていたか否かが問題となり、上記の診療義務の質的量的範囲を画することとなる。

この注意義務はどのような基準によって画されるか。

未熟児網膜症に関する最高裁判所昭和57年3月30日判決は、診療当時の臨床医学の実践における医療水準であるとしており、この判例が注意義務を画する医療水準論のスタンダードとして定着するに至っている。

この医療水準論とは如何なるものであろうか。またこれは医師にとって日々の臨床に携わる際にどのように自らの行動原則として取り入れることがいいのか、分析してみる。

日々の診療における行動原則として分析するにあたり好例の判例がある。

平成7年6月9日の最高裁判例である(民集49巻医療過誤判例百選第2版162頁)


2008/09/30

Q 医療設備の使用方法の間違いにより患者が死亡した場合、医師が責任を負うのでしょ うか。また医療設備の製造業者は責任を負わないのでしょうか。

 

医療法の改正により、平成19年4月から無床診療所にも医療安全対策の義務化が適用されることになりました。その一環として医療機器の保守点検もしっかりしなければなりません。

医療器具・設備の使用方法や整備方法の間違いによる医療過誤は裁判例としては余り多くはありませんが、無いわけではありません。

例えば、東京地方裁判所平成15年3月20日判決は、都立病院において乳児の気管切開部位に装着した医療器具に他社製の呼吸回路機器を接続したところ接続部が閉塞して乳児が喚起不全に陥り死亡したケースについて、医療器具の製造業者の製造物責任と接続前に点検をしなかった医療機関の責任を認めました。

製造業者については、他社製の呼吸回路機器を接続することによって閉塞が起きる可能性があり、そのような場合には医療器具を使用しないよう指示・警告を発する等の措置を取らない限り、指示・警告上の欠陥があり、製造物責任を負うとしました。

また、たとえ医療器具を使用した医師に注意義務違反が認められるからといって、製造企業が製造物責任を免れられるものではないとしました。

この判例から学ぶところですが、医師は、十分医療機器の使用方法について熟知しておくことが必要であることです。また医療機器の整備についてはこの判例では触れられていませんが、おそらく医療機器の整備不全についても医師の責任を問われることも考えられ、医療機器の整備についても、医師会などで出しているガイドラインをもとに安全計画を立て、計画的に整備をしていくことが肝要でしょう。


2008/09/30

Q 入院中の患者がベッドから転落してケガをしたので、その患者から損害賠償請求をされていますが、当院としては賠償に応じなければいけないでしょうか。

 

A

医療機関は、入院中に設備によって患者が怪我をしないように配慮する義務が診療契約上の付随義務として認められているといっていいでしょう。そのため、医療機関は院内の安全設備を整備することが必要ですし、またベッドなどの家具についても怪我をすることがないように配慮する必要があります。

そして、ベッドにおいては転落を防止するための柵など設置するなど転落防止の器具を整備する必要があると考えられます。したがって、かような安全設備がなく転落してしまった場合には、医療機関は診療契約上の債務不履行責任を負う可能性があります。

では、柵などを設置していてもそれ以上に動いてしまって転落してしまった場合、どうなるでしょうか。

病状によっては、身体的拘束をして、安全を確保する義務が認められる場合もあります。ただし、身体的抑制は、患者の尊厳の確保の観点から必要最小限に考えるべきであるという考えもあり、厚生労働省は、平成13年3月に「身体拘束ゼロへの手引き」を発表し、当該患者又は他の患者の生命又は身体を保護するために緊急やむを得ない場合でない限り、身体拘束は許されないという基準を発表しました。すなわち、切迫性、非代替性、一時性の3つの要件を全て満たした場合に限って身体拘束が認められるとしています。

したがって、安全に過剰に反応して拘束をすると、かえってその行為自体が患者の尊厳を傷つけ、かえって慰謝料などの請求がされかれないことになります。

この点について参考となる判例があります。大阪地方裁判所平成19年11月14日判決(判例時報2001号58頁)は、県立病院に入院中の患者がベッドにより転落受傷した事故について、病院の医師、看護師に過失が無いとして県に対する損害賠償請求を棄却した例です。

同判決は、上肢に限定した抑制措置を講じたことは、患者の状態等から考えると適切な措置であったと認め、事故発生について医師や看護師の過失を認めませんでした。裁判所は、抑制帯について患者が説明をしていたこと、患者の体動の状態、抑制について限定的に行うべきこと等の要素から総合的に判断しているようです。したがって、常に抑制帯を用いる必要があるか否かは議論の余地があり、それは結局患者の状態にもよるということです。

医療機関としては患者の状態をよく見極めながら状況に応じて抑制帯などの利用をおこなって事故の発生を防ぐ努力をしていかなければならないと思われます。


2008/09/30

1.事実の概要

昭和40年6月から9月にかけてY産院で出生またはY産院に入院した乳児において、同年末から翌年6月ころにかけて、X1ないしX4を含め29名の結核感染児が発見され、ほかに肺炎と診断され入院した後死亡しその胃液から結核菌の検出された乳児が1名いたことが判明し、新聞等に大きく報道された。

○○衛生局は乳児結核調査委員会を設置し、同委員会は、乳児らはY産院に入院中に未熟児室あるいは新生児室において結核菌に感染したとの調査結果を公表したが、Y産院は院内感染ではないと主張していた。

X1ないしX4とその父母X5ないしX12がY産院に対して損害賠償を求めたのが本件である。


2.裁判で争われた点

⑴ 病院の具体的注意義務違反(過失)

⑵ 感染源および感染経路(因果関係)


3.裁判所が示した病院側の義務

⑴ 医療機関においては、伝染性疾患の早期発見のため医療機関以外においてなされるより頻繁にかつ専門医により厳格に健康診断を行わなければならない義務がある。

⑵ 医療機関においては健康診断の結果伝染性疾患に罹患している疑いのある者が発見された場合、その者が罹患していないと確認されるまでは一応伝染性疾患罹患者として扱い職場から隔離する義務がある。

⑶ 再循環式空気調節器によりナースステーション内の空気を未熟児室内、新生児室内へ送る場合には、未熟児ないし新生児は細歯に対し極めて抵抗力が低いのであるから、ナースステーションも未熟児室・新生児室に準じて厳格な衛生管理を行い、消毒を済せた担当医師、看護婦らの医療従事者以外の者は入室させない取扱いをすべき義務がある。

⑷ 医療従事者以外の者がナースステーションに出入することがない場合においても、ナースステーションの受付小窓から室内に向い話をした場合において、病原菌が室内に飛散され、再循環式空気調節器により未熟児室内、新生児室内に送り込まれることを防ぐための方策を採るべき義務がある。

⑸ 病院内における乳児の集団結核感染の疑いが生じた後において、病院には、当該時期の入院者に対しツベルクリン反応検査を行う等してその患者の発見に努め、その追跡調査を尽くし、発病、患者の病状の悪化を防ぐための措置を採るべき義務がある。


4.具体的注意義務違反に関する裁判所の判断

⑴ Y産院は、年一回定期健康診断を行っていただけであり、それも専門医とはいい難い医師に委せ、X線写真も原則として間接撮影にとどめていたため、各X線写真撮影時期に結核患者を発見しえたにもかかわらず、昭和40年7月あるいは同年12月ころまでこれを発見できず、その間、排菌者を含む結核患者10名を業務に従事させていた過失がある。

⑵ 被告は、昭和40年7月の間接撮影の結果、従業員AおよびBに結核発病の疑いが生じた後、さらには直接撮影の結果によりAについてそれが確定的になった後においてもなお、直ちにA、Bを職場から隔離する等伝染の機会をなくす措置を採ることなく、Aには昭和40年8月25日ころまでそれまでと同様の勤務をつづけさせ、Bに対しては少くとも同年12月まで未熟児室に勤務させていた。Y産院は、胸部X線写真撮影の結果結核発病の疑いのある者は職場から隔離する等の措置を講ずる義務があったにもかかわらずこれを怠り、AB両名を上記各期間Y産院内で健康人と同様の業務に従事させていた過失があった。

⑶ Y産院では、ナースステーションへは医療関係者以外の職員、外来者も自由に出入りでき、とくに、乳児の父母はナースステーション内から未熟児室、新生児室に入院中の乳児に面会していたことが認められ、医療従者以外の職員及び外来者にナースステーションに自由に出入させていたものであり、この点につき過失があった。

⑷ Y産院の再循環式空気調節器は結核菌を通過させるものであり、その他に結核菌の濾過装置等の設備はなく、この点につき過失があった。

⑸ X1は毎月一回昭和41年2月までY産院において定期健康診断を受けていたが、結核については何らの診察もされず同年4月16日にはじめて結核と判明した。X2は昭和40年10月20日、同月27日いずれにおいてもツベルクリン反応検査中等度陽性であり、昭和41年2月18日結核発病と診断されていたが、同年4月10日ころになってはじめて保健所が調査に来た。X3は昭和41年3月18日別の小児病院においてはじめてX線写真を撮影した。X1〜X3の各結核がY産院の集団発生と関係あると判明したのは昭和41年4月16日ころ、他の14名の結核患者についての報道がなされた後であること、Y産院は、乳児結核集団院内感染の疑いが生じた昭和40年12月ころ、○○衛生局に資料を提供したことが認められ、Y産院がとくに入院者の追跡調査等を行っていることは認められない。したがって、Y産院には、乳児結核院内感染の疑が生じた後、入院者の調査、患者の病状の悪化を防ぐための措置を怠った過失がある。


5.裁判所の因果関係の認定の仕方

Y産院には、上記⑴〜⑷の過失があったものといわざるを得ず、そのいずれか、もくは複数が原因となり、入院中の乳児に結核菌を感染させたものであると推認せざるを得ない。


6.病院に求められる院内感染防止策

⑴「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き(案)」

⑵ 「病院内感染対策ハンドブック第4版(2002年度)」国立国際医療センター院内感染防止委員会


2008/09/30

事案

昭和49年、Xは、Y1病院で、化膿性壊疽性虫垂炎で虫垂切除手術を受けた。

当該手術は、ペルカミンS(主成分はジブカイン)を用いた腰椎麻酔によって行われた。

ペルカミンSの添付文書(能書)には、麻酔剤注入後は10分ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきことが記載されていた。

しかし、Y2は、介助看護婦に対し、5分ごとに血圧を測定して報告するよう指示していた(昭和49年ころは、血圧については少なくとも5分間隔で測るというのが一般開業医の常識(医療慣行)であった。)。

午後4時32分ころ、腰椎麻酔が実施され、4時35分時の血圧(124−70)・脈拍(84)に異常はなかった。4時40分執刀開始(血圧122−72・脈拍78)。4時44、45分ころ、Xが悪心を訴え、ほぼ同時に介助看護婦が脈が弱くなったと報告。YがXに声をかけたが返答がなく、意識はなかった。4時45分ころ、手術は中止された。その後、救命蘇生措置がとられ、4時55分時の血圧は90−58、脈拍は120となり、以後、血圧・脈拍ともに安定したが、Xの意識は回復しなかった。5時20分手術再開。5時42分手術終了。

手術中、心停止等に陥ったことにより、Xには重度の脳機能低下症の後遺症が残った。


争点

担当医による介助看護婦への血圧測定の指示が、能書にしたがい2分間隔とすべきであったか、医療慣行にしたがい5分間隔でよかったのか。


裁判所の判断

  1. 人の生命および健康を管理すべき医業に従事する者は、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。
  2. 具体的な個々の事案において、債務不履行または不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。
  3. 「臨床医学の実践における医療水準」は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療にあたった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられる。
  4. 「医療水準」は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている「医療慣行」とは必ずしも一致するものではなく、医師が「医療慣行」にしたがった医療行為をしたからといって、医療水準にしたがった注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
  5. 医師が医薬品を使用するにあたって、医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項にしたがわず、それによって医療事故が発生した場合には、これにしたがわなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。
  6. Y2には、添付文書(能書)にしたがって2分ごとの血圧測定を行わなかった過失があり、この過失とXの脳機能低下症発症との間には因果関係がある。

コメント

  • 「医療慣行」といっても、合理的な根拠を有するものもあれば、有しないものもある。また、もともと合理的な根拠を有していたものであっても、医学の進歩により合理性を失うものもある。裁判所が、「医師が『医療慣行』にしたがった医療行為をしたからといって、医療水準にしたがった注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」としたのはこうした理由によるものであろう。
  • なお、本判決を前提としても、薬品に対する評価は変わりうるものであり、また、投与を受ける患者の個体差や病態の程度などは千差万別であるから、添付文書(能書)に記載されたことを遵守したというだけで、医師の注意義務がつくされたということにはならないことに注意すべきである。

2008/09/30

1 浦和地裁平成5年7月30日判決(判時1494号139頁、判タ841号201頁)

事案の概要

16歳男子が、昭和61年1月9日、バイク走行中に自損事故を起こし、右下肢開放骨折の傷害を負った。その他に筋の断絶、相当多量の出血を伴ったが、下肢切断を要するほど重篤ではなかった。

救急車により被告病院に搬送され、以降同月13日まで入院し、治療を受けた。搬送された当日、手術を行った。

同月10日、白血球の測定値が正常値の4.0〜8.5を大きく上回る17.6であった。午後2時ころから、右足背にチアノーゼ、右膝腫張の症状が現れ、疼痛をしばしば訴えるようになった。

同月11日午前、右下大腿の間説話押すと、キューという音がするようになり、疼痛も激しくなった。夕方から発熱して、39.8度にまで達し、翌12日も38度以上が続いた。

同月12日午前10時ころ、相当顕著な異臭があり、遅くともこの段階でガス壊疸の発症はほぼ確定的であった。しかし、日曜日で専門医やレントゲン医師が不在であったことから、何らの措置も採られなかった。

同13日午前9時30分ころ、医師が異臭からガス壊疸にほぼ間違いないと推断し、ペニシリンGを発注し、破傷風感染防止のためのトキソイド投与、細菌検査、菌の培養検査等の処置をしたほか、レントゲン撮影により、ガス像を確認した。

同日午後1時20分ころ、大腿周辺に切開を加えたところ、水疱が膝下だけではなく大腿部にまで及んでいたことなどからガス壊疸と確定的に診断し、午後2時ころ、ガス壊疸について最良の治療方法である高圧酸素療法の設備を備えているN病院に連絡を取り、救急車で搬送した。

その後のN病院での治療の結果、原告は結局一下肢を膝関節以上で失い、自賠等級4級の後遺障害が残った。


裁判所の判断

原告の交通事故による受傷の状況、傷害の態様、診療経過を総合すると、ガス壊疸発症の危険性が相当高かったと言わざるを得ない。

したがって、この段階において、手術・治療を行う医師は、急激にして重大な結果をもたらすガス壊疸の発症を防止することを最重要課題の一つとして念頭に置いて、処置すべき医学上の義務があったにもかかわらず、これを怠って、誤った治療方法を行った。

高圧酸素療法により受傷肢を残しうる可能性の多くなった今日では、ガス壊疸発症の可能性が予想される場合には、可能な限り高圧酸素療法の設備のある施設へ転送すべきである。もっとも、高圧酸素療法も一定の危険を伴うものとされており、またその設備が広く普及しているものとも考えられないから、ガス壊疸発症の危険性が少しでも存在するだけで直ちに高圧酸素療法の設備のある設備へ転送すべき義務があるものとは解しがたい。

しかし、本件では、交通事故による傷害の態様及び手術の状況からすればガス壊疸菌の増殖する可能性があり、また、ガス壊疸は術後比較的初期の段階で発症し、かつ、発症した場合には短時間に悪化し、重篤な結果を招来しやすいが、他方診断は比較的容易なものである。

そうしてみると、被告は、手術を行い、創傷の縫合にまで及んだ以上、手術後相当の期間ガス壊疸発症の可能性について十分な配慮をし、発症の徴候が現れたときは、直ちに高圧酸素療法の設備のある施設に転送するなど適切な処置を講ずる義務があったものといわなければならない。

本件では、少なくとも、12日の午前中には、高圧酸素療法の設備のある施設へ転送する措置を講ずるべきであった。しかるに、被告側の一方的な事情により、その治療に必要な転院の時期を遅延させたのであるから、発症したガス壊疸に対する治療を誤ったものと言わざるを得ない。


認容額

約6,000万円(既に受領した労働災害補償保険法による障害者年金約433万円を控除)



2 横浜地裁平成17年9月14日判決(判時1927号79頁、判タ1249号198頁)

事案の概要

平成7年3月から同10年6月までの間、肺癌の疑いのため被告センターに入通院して治療を受けていた男性患者(初診時53歳)が、C型肝炎による肝細胞癌発症の疑いが生じてがんセンターに転院したところ、転院後17日目に食道静脈瘤破裂により死亡した。


裁判所の判断

C型肝炎には、種々の治療法が存在するから、当該患者の肝炎の進行度と年齢に応じ、これらの治療法が必要な範囲で実施されるべきであるとともに、C型肝炎が進行して肝硬変段階又はそれに近い段階にあれば、肝細胞癌発症の危険性があるから、患者に定期的な腫瘍マーカー検査及び画像検査を受けさせ、肝細胞癌の発見に努めるべきであり、さらに、もし肝細胞癌が発見された場合には、これを治療すべく種々の治療法を受けさせるべきである。本件患者については、平成7年3月28日時点で、臨床検査の結果、肝機能が悪化していることを強くうかがわせる所見が得られていたのであるから、種々の検査及び治療を受けさせる必要性及び緊急性が特に高い患者であった。他方、被告センターには、検査及び治療のための人的物的施設が十分ではなかった。これらの事実等に照らすと、被告センター医師らは、患者のC型肝炎について自ら適切な診断を行うことができないものとして、患者に対し、肝臓疾患を専門としC型肝炎、肝硬変及び肝臓癌の検査及び治療を十分に行うことができる設備を有する専門医療機関へ転医するよう勧告することが必要であったと認められ、被告センターは、患者について、C型肝炎ウィルス抗体反応検査結果が陽性であることが判明した平成7年4月7日以降、患者についてC型肝炎に感染していること及び転医しなかった場合に予想される予後等を説明し、上記のような医療機関への転医を勧告すべき診療契約上の義務を負担していると認められる。

患者は、平成7年4月5日に肺癌の有無の検査目的で被告センターに入院したものであり、C型肝炎ウィルス抗体反応検査も肺癌の有無の精査目的で実施を予定していた気管支鏡検査を行うための一連の手順の一環として行われたものに過ぎず、この時点では患者に肺癌が強く疑われており、早急に確定診断を行うことが必要とされていたのであるから、同年4月7日にC型肝炎ウィルス抗体反応が陽性であることが判明した時点で、直ちに医師らが患者に転医を勧告しなかったとしても、医師らが債務の履行を遅滞したものとは言い難い。しかし、同年5月25日ころには、患者が肺癌に罹患している可能性は低いものとされ、肺の経過観察に併せて肝障害の治療にも当たることとして肝庇護薬を投与し始めたのであって、アルコールのみを原因とする肝障害とC型肝炎を伴う肝障害とでは行うべき検査及び治療法並びに予後が著しく異なるのであるから、医師はC型肝炎ウィルス感染の有無を当然確認すべき状況にあり、かつ、患者のC型肝炎感染の事実についての診療録記載状況にかんがみて、患者のC型肝炎感染の事実を当然認識してしかるべき状況にあったものと認められる。したがって、医師は、遅くとも上記の時点で患者がC型肝炎に感染していることを認識し、患者に対してこれを説明して肝疾患専門医への転医を勧告すべきであったと認められる。にもかかわらず、医師は患者のC型肝炎感染の事実に気付かず、患者に対しC型肝炎に感染していることを説明して転医を勧告しなかったのであるから、これが債務の履行遅滞に当たることは明らかである。よって、被告センターの医師には転医勧告義務を怠った過失があり、これは被告の債務不履行に当たる。


認容額

約3,000万円(患者が被告センターに来院した当時既にC型肝炎が高度に進行していたことなどから、被告の債務不履行かなかったとしてもC型肝炎に起因する死亡の結果は避けがたいものであって、種々の検査及び治療によっても死期を遅らせることができた高度な蓋然性が認められるにとどまることから、過失相殺の法理により4割減額)


2008/09/30

1 神戸地裁平成4年6月30日判決(判時1458号127頁、判タ802号196頁)

事案の概要

20歳男性が、20:10ころ自動車事故で肺挫傷・気管支破裂の重傷を負う。

20:12ころ、事故の連絡を受けた消防局管制室が救急車の出動を指令

事故現場から200メートルほどのS病院玄関口まで搬送

同病院医師が救急車内で第三次救急患者と診断し、受け入れを拒否

20:34ころ、管制室がY病院に受け入れの可否を問い合わせるも、受入不可の回答

当時、Y病院には、11名の当直医がいたが、脳外科医と整形外科医が宅直

20:39ころ、管制室が、K病院に受入を要請するも、手術中を理由に断られる

20:48ころ、管制室が隣市のN病院に受入を要請して搬送

21:13にN病院に収容

同病院で直ちに応急処置を施し、翌日1:00から5時間ほどかけて開胸手術を実施

6:50 呼吸不全により死亡


裁判所の判断

客観的にみて、Y病院の夜間救急医師は受入(診療)を拒否したと言わざるを得ない。

病院所属の医師が診療拒否をした場合、当該診療拒否は病院の診療拒否となり、Y病院の所属医師が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には、Y病院に過失があるという一応の推定がなされ、同病院は、診療拒否についての正当事由を主張・立証しない限り患者の被った損害を賠償すべき責任を負う

市内における第三次救急医療機関が当時Y病院とK病院の二院に限られていた医療体制内において、Y病院が市内における第一次、第二次救急医療機関の存在をもって、診療拒否の正当理由とすることはできない。

医師が手術中であることは、診療拒否を正当ならしめる事由の一つになりうると解される。しかし、患者の本件受傷と密接に関連する診療科目である外科の専門医師が当時いかなる診療に従事していたのか、受付担当者が連絡を受理し、これを伝えた医師がどの診療科目担当の医師で、同医師がいかなる診療に従事していたのか等についての具体的な主張・立証がない以上、Y病院の診療拒否につき正当理由を肯定するに至らない。


認容額

150万円



2 名古屋地裁昭和58年8月19日判決(判時110 4号107頁)

事案の概要

心臓疾患等のためA病院で治療を受け、その後は最寄りの開業医B及びC医師の往診を受けていた83歳の女性患者が、14:00ころ高熱を発し、C医師の往診を受け、入院治療が必要であると診断された。

その後、B医師に連絡して診療を求めたが、B医師は往診中

容態が悪化しつづけたので、17:00ころ、A病院に連絡して入院治療を依頼したが、「かかりつけの医師の診療を受け、その結果を報告するように。」と指示された。

改めてB医師に連絡し、19:20ころ、B医師方に搬送

B医師は、心筋障害による急性冠不全症状であり、即刻入院治療を要すると診断し、応急処置を施したのち、A病院に報告。

A病院側は、内科医の不在と重症患者が入院中で人手不足であることを理由に入院を拒否。

やむなく他の病院に次々連絡し、23:20ころD病院から受入を承諾され、同病院に向けて搬送したが、翌日症状の改善をみないまま死亡。


裁判所の判断

請求棄却。

当時、A病院の当直医師が一名であり、当該医師は、同日17:00以降翌日8:30までの当直時間中に出産二名を除く四名を入院させ診療しており、そのうち18:00ころ入院させた一名は交通事故による重傷者で出血が激しく、入院治療の依頼を受けた20:00ころ同患者の治療に追われていたこと、当該医師は、B医師から患者の容態や採った措置についての説明を受けていると認められ、脳外科の専門医である当該医師としては、患者を入院診察したとしても、内科医であるB医師の採った措置以上の適切な措置を採ることは困難であり、他の専門医の診療を受けさせた方が適切であると判断したものと推認されること等の事情を考慮すると、やむを得ざる入院診療の拒否であり、医師法上の義務違反には該当しないと解するのが相当である。



3 千葉地裁昭和61年7月25日判決(判時1220号118頁)

事案の概要

感冒気味であった1歳の女児がA医院で診察を受けたところ、チアノーゼ、喘鳴、軽度の呼吸困難、心臓の頻脈等が認められ、気管支炎か肺炎の疑いで重傷と考えられたので、A医師は小児科専門医がいて入院設備のある木更津市内のB病院外来に電話を入れ、救急車による搬送を依頼した。

9:45に救急車が出発し、10:03にB病院到着、その間にB病院からA医師に満床で入院不可との連絡あり

B病院前に救急車を待機させたまま、再度入院それが不能のときは診察の依頼をするも、B病院の医師が「緊急の入院を要する患者であれば、初めから設備のある病院へ搬送して欲しい」として要請を断る

管内の受入先が容易に見つからず、管外への搬送もやむなしと判断し、B病院に対し、患者が1ないし2時間の搬送に耐えうるかの診断を依頼し、B病院医師が救急車内で約2分間診察し、搬送には耐えられると判断して救急車を送り出す

その後、11:17に千葉市内のC病院の受入が確認でき、12:14にC病院到着

呼吸循環不全症は改善されず、15:00死亡


裁判所の判断

医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、医師に過失があるとの一応の推定がなされ、診療拒否に正当事由がある等の反証がないかぎり医師の民事責任が認められると解すべきである。病院も医師についてと同様の診療義務を負っていると解すべき。

B病院は、救急告示病院であるが、救急隊によって搬送される傷病者のための救急室があり、そこには病床と応急措置のための医療器具、医薬品が備え付けられていたことが認められ、これを超えて、救急告示病院であることにより、緊急かつ重篤な患者の治療のため各診療科に病床を確保しておかなければならないものとはいえず、救急告示病院であることが、直ちに医師法19条の正当事由の解釈に影響を及ぼすものではないと解すべきである。

医師法19条1項における診療拒否が認められる「正当な事由」とは、原則として医師の不在または病気等により事実上診療が不可能である場合を指すが、診療を求める患者の病状、診療を求められた医師または病院の人的・物的能力、代替医療施設の存否等の具体的事情によっては、ベッド満床も右正当事由にあたると解せられる。

証拠によれば、当時B病院にはベッドが一般病棟に38床、小児科病棟に6床あったものの、いずれも入院患者がおり、他の診療科にもベッドを借りていた状態であったことが認められる。しかし、証拠によれば当日午前中のB病院小児科の担当医は3名おり、外来患者の受付中であったこと、木更津市近辺には小児科の専門医がいて、しかも小児科の入院設備のある病院はB病院以外にはなかったこと、B病院医師は患者を救急車内で診察した際、直ちに処置が必要だと判断し、同時にB病院が患者の診療を拒否すれば、千葉市もしくはそれ以北、千葉県南部では夷隅郡まで行かないと収容先が見つからないことを認識していたこと、B病院の小児科病棟のベッド数は現在は6床であるが、以前は同じ病室に12、3床のベッドを入れて使用していたこと、以上の事実が認められる。B病院の全診療科を合わせたベッド数及びその使用状況については必ずしも明らかではないが、仮に他の診療科のベッドも全て満床であったとしても、とりあえずは救急室か外来のベッドで診察及び点滴等の応急の治療を行い、その間にも他科を含めて患者の退院によってベッドが空くのを待つという対応を取ることも、少なくとも300床を超える入院設備を有する同病院には可能であったといえる。よって、B病院のベッド満床を理由とする診療拒否には、医師法19条1項にいう正当事由がないと言うべきである。従って、B病院の診療拒否は、民事上の過失がある場合にあたると解すべきである。


認容額

約2800万円


総括コメント

受診拒否については、医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、医師に過失があるとの一応の推定がなされ、診療拒否に正当事由がある等の反証がないかぎり医師の民事責任が認められる。

病院も医師についてと同様の診療義務を負っていると解され、所属医師と同様の民事責任が認められる。

正当事由については、医師の手術中や病院のベッドが満床であることなども一応正当事由になりうるとしながらも、具体的事情を考慮して、事実上診療が不可能であったか否かがかなり厳しく判断されている。


2008/09/30

1 最高裁判所第2小法廷昭和50年10月24日判決

事案の概要

重篤な化膿性髄膜炎のため入院していた3歳の幼児が治療を受け、次第に重篤状態を脱し、一貫して軽快しつつあったが、医師によりルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術を受けたところ、その15分ないし20分後突然に嘔吐、けいれんの発作等を起こし、右半身けいれん性不全麻痺、性格障害、知能障害及び運動障害等を残した欠損治癒の状態で退院し、知能障害、運動障害等の後遺症が残った。


裁判所の判断

原判決は、訴訟にあらわれた証拠によっては、発作とその後の病変の原因が、ルンバールを実施したことによる脳内出血によるのか、化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれによるかは判定しがたいとし、ルンバールの施術と発作との因果関係を否定したが、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合判断し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し、かつ、それで足りるとして因果関係を肯定した。


コメント

医療事故訴訟における因果関係の認定、判断は医療行為の専門性、技術性等といった事情から、困難を伴うことが多い。

本判例は、医療事故訴訟の因果関係の認定、判断においての指針となるものである。

 

 

2 大阪高等地方裁判所平成8年9月26日判決

事案の概要

23歳の男性が交通事故で重傷を負い、救急病院に搬送された。医師が救急医療を担当し、レントゲン撮影等をしないままでいったん身体状態は安定したが、その後数時間もしないうちに容態が急変して死亡した。死因は不明。


裁判所の判断

原審は医師側の過失を否定したが、責任を認めた。直接の死因は特定できないものの、医師が適切なレントゲン撮影等を行っておれば、患者の損傷、出血の有無や程度を把握できたであろうことが推認でき、そうすれば治療行為が適切に行われることも期待でき、救命の可能性があったものと推認するのが相当であるとし、医師がレントゲン撮影等の処置をとらなかったことと患者の死亡との間に因果関係を肯定した。

その際、確かに死因が特定されない場合に、医療行為上の過失とされる行為と死因との間に因果関係を認めることは一般的には躊躇せざるを得ないが、本件のような交通事故における救急医療の場において、事故直後の対応に際して、最も基本ともいうべきレントゲン撮影等を怠る過失があり、これを怠らなければ患者の容態の適切な把握の可能性も窺われ、次の措置も期待できる状況にあり、しかも、救命の可能性が全く否定できないとすれば、レントゲン撮影等を怠った過失と死亡との間に因果関係を認めるのが相当と判示した。


コメント

一般的には、死亡原因が特定されないと、とるべき救命のための具体的な医療行為が特定できず、したがって救命の可能性を論ずることも困難であり、過失行為と死亡との因果関係を認めることもできない。

本件では、交通事故における救急医療の場という特殊性から一般的な場合と同様には論じられないとしたものであるが、本件のように患者の死亡原因が不明のままで医師の過失と死亡との因果関係を認めた裁判例は珍しい。

 

 

3 最高裁判所第2小法廷平成12年9月22日判決

事案の概要

患者が狭心症発作を起こして病院の夜間救急外来で診察を受けた。診察当時、狭心症が心筋梗塞に移行し相当に増悪した状態であったが、医師は、急性膵炎に対する薬の点滴を実施し、この点滴中に致命的不整脈を生じて患者は死に至った。

死因は、不安定狭心症から切迫性急性心筋梗塞に至り、心不全をきたしたことにある。

医師は、胸部疾患の可能性のある患者に対する初期治療として行うべき基本的義務を果たしておらず、医師が適切な医療行為を行っていれば、患者を救命できた高度の蓋然性までは認めることはできないが、救命の可能性はあった。


裁判所の判断

疾病のため死亡した患者の診療にあたった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明できないが、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う旨判示し、適切な医療を受ける機会を不当に奪われ被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円の支払いを認めた原審の判断を支持した。


コメント

医療行為についての医師の過失は認められるも、医療行為と患者の死亡等との間の因果関係が証明できない場合にも、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、医療水準にかなった医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点において生存していた相当程度の可能性というものが法によって保護されるべき利益であることを認めた判例である。今後は、この法理による判断が増えるものと考えられる。

赤井・岡田法律事務所

075-257-6033

京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184 オクムラビル2階

事務所紹介・アクセスはこちら

お問い合わせ