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  1. 転送義務が問題となった事例
 

転送義務が問題となった事例

2008/09/30

1 浦和地裁平成5年7月30日判決(判時1494号139頁、判タ841号201頁)

事案の概要

16歳男子が、昭和61年1月9日、バイク走行中に自損事故を起こし、右下肢開放骨折の傷害を負った。その他に筋の断絶、相当多量の出血を伴ったが、下肢切断を要するほど重篤ではなかった。

救急車により被告病院に搬送され、以降同月13日まで入院し、治療を受けた。搬送された当日、手術を行った。

同月10日、白血球の測定値が正常値の4.0〜8.5を大きく上回る17.6であった。午後2時ころから、右足背にチアノーゼ、右膝腫張の症状が現れ、疼痛をしばしば訴えるようになった。

同月11日午前、右下大腿の間説話押すと、キューという音がするようになり、疼痛も激しくなった。夕方から発熱して、39.8度にまで達し、翌12日も38度以上が続いた。

同月12日午前10時ころ、相当顕著な異臭があり、遅くともこの段階でガス壊疸の発症はほぼ確定的であった。しかし、日曜日で専門医やレントゲン医師が不在であったことから、何らの措置も採られなかった。

同13日午前9時30分ころ、医師が異臭からガス壊疸にほぼ間違いないと推断し、ペニシリンGを発注し、破傷風感染防止のためのトキソイド投与、細菌検査、菌の培養検査等の処置をしたほか、レントゲン撮影により、ガス像を確認した。

同日午後1時20分ころ、大腿周辺に切開を加えたところ、水疱が膝下だけではなく大腿部にまで及んでいたことなどからガス壊疸と確定的に診断し、午後2時ころ、ガス壊疸について最良の治療方法である高圧酸素療法の設備を備えているN病院に連絡を取り、救急車で搬送した。

その後のN病院での治療の結果、原告は結局一下肢を膝関節以上で失い、自賠等級4級の後遺障害が残った。


裁判所の判断

原告の交通事故による受傷の状況、傷害の態様、診療経過を総合すると、ガス壊疸発症の危険性が相当高かったと言わざるを得ない。

したがって、この段階において、手術・治療を行う医師は、急激にして重大な結果をもたらすガス壊疸の発症を防止することを最重要課題の一つとして念頭に置いて、処置すべき医学上の義務があったにもかかわらず、これを怠って、誤った治療方法を行った。

高圧酸素療法により受傷肢を残しうる可能性の多くなった今日では、ガス壊疸発症の可能性が予想される場合には、可能な限り高圧酸素療法の設備のある施設へ転送すべきである。もっとも、高圧酸素療法も一定の危険を伴うものとされており、またその設備が広く普及しているものとも考えられないから、ガス壊疸発症の危険性が少しでも存在するだけで直ちに高圧酸素療法の設備のある設備へ転送すべき義務があるものとは解しがたい。

しかし、本件では、交通事故による傷害の態様及び手術の状況からすればガス壊疸菌の増殖する可能性があり、また、ガス壊疸は術後比較的初期の段階で発症し、かつ、発症した場合には短時間に悪化し、重篤な結果を招来しやすいが、他方診断は比較的容易なものである。

そうしてみると、被告は、手術を行い、創傷の縫合にまで及んだ以上、手術後相当の期間ガス壊疸発症の可能性について十分な配慮をし、発症の徴候が現れたときは、直ちに高圧酸素療法の設備のある施設に転送するなど適切な処置を講ずる義務があったものといわなければならない。

本件では、少なくとも、12日の午前中には、高圧酸素療法の設備のある施設へ転送する措置を講ずるべきであった。しかるに、被告側の一方的な事情により、その治療に必要な転院の時期を遅延させたのであるから、発症したガス壊疸に対する治療を誤ったものと言わざるを得ない。


認容額

約6,000万円(既に受領した労働災害補償保険法による障害者年金約433万円を控除)



2 横浜地裁平成17年9月14日判決(判時1927号79頁、判タ1249号198頁)

事案の概要

平成7年3月から同10年6月までの間、肺癌の疑いのため被告センターに入通院して治療を受けていた男性患者(初診時53歳)が、C型肝炎による肝細胞癌発症の疑いが生じてがんセンターに転院したところ、転院後17日目に食道静脈瘤破裂により死亡した。


裁判所の判断

C型肝炎には、種々の治療法が存在するから、当該患者の肝炎の進行度と年齢に応じ、これらの治療法が必要な範囲で実施されるべきであるとともに、C型肝炎が進行して肝硬変段階又はそれに近い段階にあれば、肝細胞癌発症の危険性があるから、患者に定期的な腫瘍マーカー検査及び画像検査を受けさせ、肝細胞癌の発見に努めるべきであり、さらに、もし肝細胞癌が発見された場合には、これを治療すべく種々の治療法を受けさせるべきである。本件患者については、平成7年3月28日時点で、臨床検査の結果、肝機能が悪化していることを強くうかがわせる所見が得られていたのであるから、種々の検査及び治療を受けさせる必要性及び緊急性が特に高い患者であった。他方、被告センターには、検査及び治療のための人的物的施設が十分ではなかった。これらの事実等に照らすと、被告センター医師らは、患者のC型肝炎について自ら適切な診断を行うことができないものとして、患者に対し、肝臓疾患を専門としC型肝炎、肝硬変及び肝臓癌の検査及び治療を十分に行うことができる設備を有する専門医療機関へ転医するよう勧告することが必要であったと認められ、被告センターは、患者について、C型肝炎ウィルス抗体反応検査結果が陽性であることが判明した平成7年4月7日以降、患者についてC型肝炎に感染していること及び転医しなかった場合に予想される予後等を説明し、上記のような医療機関への転医を勧告すべき診療契約上の義務を負担していると認められる。

患者は、平成7年4月5日に肺癌の有無の検査目的で被告センターに入院したものであり、C型肝炎ウィルス抗体反応検査も肺癌の有無の精査目的で実施を予定していた気管支鏡検査を行うための一連の手順の一環として行われたものに過ぎず、この時点では患者に肺癌が強く疑われており、早急に確定診断を行うことが必要とされていたのであるから、同年4月7日にC型肝炎ウィルス抗体反応が陽性であることが判明した時点で、直ちに医師らが患者に転医を勧告しなかったとしても、医師らが債務の履行を遅滞したものとは言い難い。しかし、同年5月25日ころには、患者が肺癌に罹患している可能性は低いものとされ、肺の経過観察に併せて肝障害の治療にも当たることとして肝庇護薬を投与し始めたのであって、アルコールのみを原因とする肝障害とC型肝炎を伴う肝障害とでは行うべき検査及び治療法並びに予後が著しく異なるのであるから、医師はC型肝炎ウィルス感染の有無を当然確認すべき状況にあり、かつ、患者のC型肝炎感染の事実についての診療録記載状況にかんがみて、患者のC型肝炎感染の事実を当然認識してしかるべき状況にあったものと認められる。したがって、医師は、遅くとも上記の時点で患者がC型肝炎に感染していることを認識し、患者に対してこれを説明して肝疾患専門医への転医を勧告すべきであったと認められる。にもかかわらず、医師は患者のC型肝炎感染の事実に気付かず、患者に対しC型肝炎に感染していることを説明して転医を勧告しなかったのであるから、これが債務の履行遅滞に当たることは明らかである。よって、被告センターの医師には転医勧告義務を怠った過失があり、これは被告の債務不履行に当たる。


認容額

約3,000万円(患者が被告センターに来院した当時既にC型肝炎が高度に進行していたことなどから、被告の債務不履行かなかったとしてもC型肝炎に起因する死亡の結果は避けがたいものであって、種々の検査及び治療によっても死期を遅らせることができた高度な蓋然性が認められるにとどまることから、過失相殺の法理により4割減額)

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