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  1. 受診拒否が問題となった事例
 

受診拒否が問題となった事例

2008/09/30

1 神戸地裁平成4年6月30日判決(判時1458号127頁、判タ802号196頁)

事案の概要

20歳男性が、20:10ころ自動車事故で肺挫傷・気管支破裂の重傷を負う。

20:12ころ、事故の連絡を受けた消防局管制室が救急車の出動を指令

事故現場から200メートルほどのS病院玄関口まで搬送

同病院医師が救急車内で第三次救急患者と診断し、受け入れを拒否

20:34ころ、管制室がY病院に受け入れの可否を問い合わせるも、受入不可の回答

当時、Y病院には、11名の当直医がいたが、脳外科医と整形外科医が宅直

20:39ころ、管制室が、K病院に受入を要請するも、手術中を理由に断られる

20:48ころ、管制室が隣市のN病院に受入を要請して搬送

21:13にN病院に収容

同病院で直ちに応急処置を施し、翌日1:00から5時間ほどかけて開胸手術を実施

6:50 呼吸不全により死亡


裁判所の判断

客観的にみて、Y病院の夜間救急医師は受入(診療)を拒否したと言わざるを得ない。

病院所属の医師が診療拒否をした場合、当該診療拒否は病院の診療拒否となり、Y病院の所属医師が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には、Y病院に過失があるという一応の推定がなされ、同病院は、診療拒否についての正当事由を主張・立証しない限り患者の被った損害を賠償すべき責任を負う

市内における第三次救急医療機関が当時Y病院とK病院の二院に限られていた医療体制内において、Y病院が市内における第一次、第二次救急医療機関の存在をもって、診療拒否の正当理由とすることはできない。

医師が手術中であることは、診療拒否を正当ならしめる事由の一つになりうると解される。しかし、患者の本件受傷と密接に関連する診療科目である外科の専門医師が当時いかなる診療に従事していたのか、受付担当者が連絡を受理し、これを伝えた医師がどの診療科目担当の医師で、同医師がいかなる診療に従事していたのか等についての具体的な主張・立証がない以上、Y病院の診療拒否につき正当理由を肯定するに至らない。


認容額

150万円



2 名古屋地裁昭和58年8月19日判決(判時110 4号107頁)

事案の概要

心臓疾患等のためA病院で治療を受け、その後は最寄りの開業医B及びC医師の往診を受けていた83歳の女性患者が、14:00ころ高熱を発し、C医師の往診を受け、入院治療が必要であると診断された。

その後、B医師に連絡して診療を求めたが、B医師は往診中

容態が悪化しつづけたので、17:00ころ、A病院に連絡して入院治療を依頼したが、「かかりつけの医師の診療を受け、その結果を報告するように。」と指示された。

改めてB医師に連絡し、19:20ころ、B医師方に搬送

B医師は、心筋障害による急性冠不全症状であり、即刻入院治療を要すると診断し、応急処置を施したのち、A病院に報告。

A病院側は、内科医の不在と重症患者が入院中で人手不足であることを理由に入院を拒否。

やむなく他の病院に次々連絡し、23:20ころD病院から受入を承諾され、同病院に向けて搬送したが、翌日症状の改善をみないまま死亡。


裁判所の判断

請求棄却。

当時、A病院の当直医師が一名であり、当該医師は、同日17:00以降翌日8:30までの当直時間中に出産二名を除く四名を入院させ診療しており、そのうち18:00ころ入院させた一名は交通事故による重傷者で出血が激しく、入院治療の依頼を受けた20:00ころ同患者の治療に追われていたこと、当該医師は、B医師から患者の容態や採った措置についての説明を受けていると認められ、脳外科の専門医である当該医師としては、患者を入院診察したとしても、内科医であるB医師の採った措置以上の適切な措置を採ることは困難であり、他の専門医の診療を受けさせた方が適切であると判断したものと推認されること等の事情を考慮すると、やむを得ざる入院診療の拒否であり、医師法上の義務違反には該当しないと解するのが相当である。



3 千葉地裁昭和61年7月25日判決(判時1220号118頁)

事案の概要

感冒気味であった1歳の女児がA医院で診察を受けたところ、チアノーゼ、喘鳴、軽度の呼吸困難、心臓の頻脈等が認められ、気管支炎か肺炎の疑いで重傷と考えられたので、A医師は小児科専門医がいて入院設備のある木更津市内のB病院外来に電話を入れ、救急車による搬送を依頼した。

9:45に救急車が出発し、10:03にB病院到着、その間にB病院からA医師に満床で入院不可との連絡あり

B病院前に救急車を待機させたまま、再度入院それが不能のときは診察の依頼をするも、B病院の医師が「緊急の入院を要する患者であれば、初めから設備のある病院へ搬送して欲しい」として要請を断る

管内の受入先が容易に見つからず、管外への搬送もやむなしと判断し、B病院に対し、患者が1ないし2時間の搬送に耐えうるかの診断を依頼し、B病院医師が救急車内で約2分間診察し、搬送には耐えられると判断して救急車を送り出す

その後、11:17に千葉市内のC病院の受入が確認でき、12:14にC病院到着

呼吸循環不全症は改善されず、15:00死亡


裁判所の判断

医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、医師に過失があるとの一応の推定がなされ、診療拒否に正当事由がある等の反証がないかぎり医師の民事責任が認められると解すべきである。病院も医師についてと同様の診療義務を負っていると解すべき。

B病院は、救急告示病院であるが、救急隊によって搬送される傷病者のための救急室があり、そこには病床と応急措置のための医療器具、医薬品が備え付けられていたことが認められ、これを超えて、救急告示病院であることにより、緊急かつ重篤な患者の治療のため各診療科に病床を確保しておかなければならないものとはいえず、救急告示病院であることが、直ちに医師法19条の正当事由の解釈に影響を及ぼすものではないと解すべきである。

医師法19条1項における診療拒否が認められる「正当な事由」とは、原則として医師の不在または病気等により事実上診療が不可能である場合を指すが、診療を求める患者の病状、診療を求められた医師または病院の人的・物的能力、代替医療施設の存否等の具体的事情によっては、ベッド満床も右正当事由にあたると解せられる。

証拠によれば、当時B病院にはベッドが一般病棟に38床、小児科病棟に6床あったものの、いずれも入院患者がおり、他の診療科にもベッドを借りていた状態であったことが認められる。しかし、証拠によれば当日午前中のB病院小児科の担当医は3名おり、外来患者の受付中であったこと、木更津市近辺には小児科の専門医がいて、しかも小児科の入院設備のある病院はB病院以外にはなかったこと、B病院医師は患者を救急車内で診察した際、直ちに処置が必要だと判断し、同時にB病院が患者の診療を拒否すれば、千葉市もしくはそれ以北、千葉県南部では夷隅郡まで行かないと収容先が見つからないことを認識していたこと、B病院の小児科病棟のベッド数は現在は6床であるが、以前は同じ病室に12、3床のベッドを入れて使用していたこと、以上の事実が認められる。B病院の全診療科を合わせたベッド数及びその使用状況については必ずしも明らかではないが、仮に他の診療科のベッドも全て満床であったとしても、とりあえずは救急室か外来のベッドで診察及び点滴等の応急の治療を行い、その間にも他科を含めて患者の退院によってベッドが空くのを待つという対応を取ることも、少なくとも300床を超える入院設備を有する同病院には可能であったといえる。よって、B病院のベッド満床を理由とする診療拒否には、医師法19条1項にいう正当事由がないと言うべきである。従って、B病院の診療拒否は、民事上の過失がある場合にあたると解すべきである。


認容額

約2800万円


総括コメント

受診拒否については、医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、医師に過失があるとの一応の推定がなされ、診療拒否に正当事由がある等の反証がないかぎり医師の民事責任が認められる。

病院も医師についてと同様の診療義務を負っていると解され、所属医師と同様の民事責任が認められる。

正当事由については、医師の手術中や病院のベッドが満床であることなども一応正当事由になりうるとしながらも、具体的事情を考慮して、事実上診療が不可能であったか否かがかなり厳しく判断されている。

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