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  1. 因果関係の判断に関するもの(損害は医療ミスによるものなのか?)
 

因果関係の判断に関するもの(損害は医療ミスによるものなのか?)

2008/09/30

1 最高裁判所第2小法廷昭和50年10月24日判決

事案の概要

重篤な化膿性髄膜炎のため入院していた3歳の幼児が治療を受け、次第に重篤状態を脱し、一貫して軽快しつつあったが、医師によりルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術を受けたところ、その15分ないし20分後突然に嘔吐、けいれんの発作等を起こし、右半身けいれん性不全麻痺、性格障害、知能障害及び運動障害等を残した欠損治癒の状態で退院し、知能障害、運動障害等の後遺症が残った。


裁判所の判断

原判決は、訴訟にあらわれた証拠によっては、発作とその後の病変の原因が、ルンバールを実施したことによる脳内出血によるのか、化膿性髄膜炎もしくはこれに随伴する脳実質の病変の再燃のいずれによるかは判定しがたいとし、ルンバールの施術と発作との因果関係を否定したが、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合判断し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し、かつ、それで足りるとして因果関係を肯定した。


コメント

医療事故訴訟における因果関係の認定、判断は医療行為の専門性、技術性等といった事情から、困難を伴うことが多い。

本判例は、医療事故訴訟の因果関係の認定、判断においての指針となるものである。

 

 

2 大阪高等地方裁判所平成8年9月26日判決

事案の概要

23歳の男性が交通事故で重傷を負い、救急病院に搬送された。医師が救急医療を担当し、レントゲン撮影等をしないままでいったん身体状態は安定したが、その後数時間もしないうちに容態が急変して死亡した。死因は不明。


裁判所の判断

原審は医師側の過失を否定したが、責任を認めた。直接の死因は特定できないものの、医師が適切なレントゲン撮影等を行っておれば、患者の損傷、出血の有無や程度を把握できたであろうことが推認でき、そうすれば治療行為が適切に行われることも期待でき、救命の可能性があったものと推認するのが相当であるとし、医師がレントゲン撮影等の処置をとらなかったことと患者の死亡との間に因果関係を肯定した。

その際、確かに死因が特定されない場合に、医療行為上の過失とされる行為と死因との間に因果関係を認めることは一般的には躊躇せざるを得ないが、本件のような交通事故における救急医療の場において、事故直後の対応に際して、最も基本ともいうべきレントゲン撮影等を怠る過失があり、これを怠らなければ患者の容態の適切な把握の可能性も窺われ、次の措置も期待できる状況にあり、しかも、救命の可能性が全く否定できないとすれば、レントゲン撮影等を怠った過失と死亡との間に因果関係を認めるのが相当と判示した。


コメント

一般的には、死亡原因が特定されないと、とるべき救命のための具体的な医療行為が特定できず、したがって救命の可能性を論ずることも困難であり、過失行為と死亡との因果関係を認めることもできない。

本件では、交通事故における救急医療の場という特殊性から一般的な場合と同様には論じられないとしたものであるが、本件のように患者の死亡原因が不明のままで医師の過失と死亡との因果関係を認めた裁判例は珍しい。

 

 

3 最高裁判所第2小法廷平成12年9月22日判決

事案の概要

患者が狭心症発作を起こして病院の夜間救急外来で診察を受けた。診察当時、狭心症が心筋梗塞に移行し相当に増悪した状態であったが、医師は、急性膵炎に対する薬の点滴を実施し、この点滴中に致命的不整脈を生じて患者は死に至った。

死因は、不安定狭心症から切迫性急性心筋梗塞に至り、心不全をきたしたことにある。

医師は、胸部疾患の可能性のある患者に対する初期治療として行うべき基本的義務を果たしておらず、医師が適切な医療行為を行っていれば、患者を救命できた高度の蓋然性までは認めることはできないが、救命の可能性はあった。


裁判所の判断

疾病のため死亡した患者の診療にあたった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明できないが、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う旨判示し、適切な医療を受ける機会を不当に奪われ被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円の支払いを認めた原審の判断を支持した。


コメント

医療行為についての医師の過失は認められるも、医療行為と患者の死亡等との間の因果関係が証明できない場合にも、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、医療水準にかなった医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点において生存していた相当程度の可能性というものが法によって保護されるべき利益であることを認めた判例である。今後は、この法理による判断が増えるものと考えられる。

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