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  1. 「医療水準」と「医療慣行」との関係−医薬品の添付文書(能書)(最判平8.1.23)
 

「医療水準」と「医療慣行」との関係−医薬品の添付文書(能書)(最判平8.1.23)

2008/09/30

事案

昭和49年、Xは、Y1病院で、化膿性壊疽性虫垂炎で虫垂切除手術を受けた。

当該手術は、ペルカミンS(主成分はジブカイン)を用いた腰椎麻酔によって行われた。

ペルカミンSの添付文書(能書)には、麻酔剤注入後は10分ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきことが記載されていた。

しかし、Y2は、介助看護婦に対し、5分ごとに血圧を測定して報告するよう指示していた(昭和49年ころは、血圧については少なくとも5分間隔で測るというのが一般開業医の常識(医療慣行)であった。)。

午後4時32分ころ、腰椎麻酔が実施され、4時35分時の血圧(124−70)・脈拍(84)に異常はなかった。4時40分執刀開始(血圧122−72・脈拍78)。4時44、45分ころ、Xが悪心を訴え、ほぼ同時に介助看護婦が脈が弱くなったと報告。YがXに声をかけたが返答がなく、意識はなかった。4時45分ころ、手術は中止された。その後、救命蘇生措置がとられ、4時55分時の血圧は90−58、脈拍は120となり、以後、血圧・脈拍ともに安定したが、Xの意識は回復しなかった。5時20分手術再開。5時42分手術終了。

手術中、心停止等に陥ったことにより、Xには重度の脳機能低下症の後遺症が残った。


争点

担当医による介助看護婦への血圧測定の指示が、能書にしたがい2分間隔とすべきであったか、医療慣行にしたがい5分間隔でよかったのか。


裁判所の判断

  1. 人の生命および健康を管理すべき医業に従事する者は、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。
  2. 具体的な個々の事案において、債務不履行または不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。
  3. 「臨床医学の実践における医療水準」は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療にあたった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられる。
  4. 「医療水準」は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている「医療慣行」とは必ずしも一致するものではなく、医師が「医療慣行」にしたがった医療行為をしたからといって、医療水準にしたがった注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
  5. 医師が医薬品を使用するにあたって、医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項にしたがわず、それによって医療事故が発生した場合には、これにしたがわなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。
  6. Y2には、添付文書(能書)にしたがって2分ごとの血圧測定を行わなかった過失があり、この過失とXの脳機能低下症発症との間には因果関係がある。

コメント

  • 「医療慣行」といっても、合理的な根拠を有するものもあれば、有しないものもある。また、もともと合理的な根拠を有していたものであっても、医学の進歩により合理性を失うものもある。裁判所が、「医師が『医療慣行』にしたがった医療行為をしたからといって、医療水準にしたがった注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」としたのはこうした理由によるものであろう。
  • なお、本判決を前提としても、薬品に対する評価は変わりうるものであり、また、投与を受ける患者の個体差や病態の程度などは千差万別であるから、添付文書(能書)に記載されたことを遵守したというだけで、医師の注意義務がつくされたということにはならないことに注意すべきである。

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